2019年10月29日火曜日

まだここにある「秋」

今年は例年になく秋が長い。北海道の秋と言えば、見る見るうちに過ぎ去ってしまって、気が付けば銀世界・・・というのが僕の持っていたイメージだ。ところが現実に暮らしてみると、そうばかりでもない。四季それぞれに、北海道には北海道の時間がちゃんと刻まれていく。ゆっくりやってくる春も、思いのほか気が早いと感じることもあるし、あっという間に過ぎ去っていく秋が、随分ゆっくり時間をかけて深まっている年もある。

で、今年の秋は本当にゆっくりゆっくりだ。大雪山の初冠雪の便りは例年通り9月下旬にはあったが、ふもとの初雪はどうやら11月を待たないと来ない模様。雨が若干少ないような気がするが、ピンと張りつめたような寒い朝もしばらくはお預けの様なのだ。
そうは言っても北海道の10月末だから、早朝は0℃前後にはなる。マイナス2℃くらいまで下がったこともあるにはあるし、晴れていれば高くても2~3℃くらいまでにはなる。おかげで木々の黄葉は実に見事で、見ごたえがある。
宿屋稼業がなりわいでもあるので、夏はありがたいことにそれなりに忙しいから、風景をめでている暇はない。もちろんここ美瑛の夏の日の朝が美しいことは百も承知だけれども、9月も半ばを過ぎて、朝霧が深く立ち込めるころになるとそわそわする。ちょうどその頃にお客様も一息で、僕自身に景色に勤しむ時間が少しずつ出てくることも関係しているのだろう。たまの休館日(つまりお客様がいない日)の晴れた朝となると、もうじっとはしていられない。こういう時に、つくづく自分は幸せなんだなぁと思う。まさかこの年になってそわそわしたり、わくわくしたりできるとは20年も前には思っていなかった・・・。


今朝もちょうどいい感じで霧が出た。霧が出る日には決まって晴天が待っている。いいお天気の合図のようでもある。しかも霧の日の景色は、見ていて飽きることがない。トマムの雲海テラスに出かけたことは1度もないけれども、美瑛の丘の霧風景は、ちょっとない幻想的で変化にとんだ、素晴らしい景色を拝むことができる。ぼやぼやしていると瞬く間に霧が晴れてしまうから、のんびりしてはいられないのが難点だが、自分の勘を頼りに(ほかに頼れそうなものもないし)あちこち移動しながら景色を見る。
霧の朝のねらい目は二つ。ひとつは白虹(霧虹)で、七色にはならないけれども弓状の円弧が大空を白く彩る。深い霧が晴れていく瞬間に見えることが多く、虹同様に順光側に見える(ので、自分の影が映りこむことが多い)。霧が深すぎても浅すぎても見えないが、深い霧が晴れていく束の間には、ほぼ間違いなく見える。あまり長時間みえているわけではないので、一層大自然の織り成す雄大さを感じてしまう。
もうひとつは霧が低いところにたまっているさまを、高台から見下ろす景色だ。これはまるで谷に白いものがたまっているかのように見えて、そこから丘の上部分が島のように浮かび上がっているようなのだ。このたまり霧風景は少し長い時間見ることができるのだけれども、日の昇る前から霧は出ていて、明るくなると同時に眼前に広がるこの景色もまた、瞬間の美しさに息を飲んでしまう。
とまぁこんなことを追いかけながら、秋の日の朝を忙しく過ごしている。お昼を待たずに眠くなるのでしばし睡魔に負けてしまうのもお決まりだ。


ちなみに今日は午後からも絶景で、棚の奥から久しぶりに70_200ミリのレンズを持ち出した。普段どちらかと言えばやや広角を使うことが多い僕だが、たまにはどうかなぁとダメもとでこの1本も連れ出した。
意外や、100から150ミリくらいの距離が結構いい感じで使えたので、これからしばらく持ち出す機会が増えそうだ。ただしこのレンズ、僕の腕だと少々打率が下がる(いやいや、8割くらい没写真になっちゃってたなぁ、今日は)。それでなくても長めのレンズは手振れしやすいところに、この古いレンズは手振れ補正がない。ちょっと意識しないと、またぞろ手振れ写真の量産をしてしまう。
クルマの運転もそうだけれども、新しい補助機能がいろいろと操作・操舵に介入してきて、最初は「いらんお世話だ」なんて息巻いていたのに、気が付けばすっかりその恩恵に浴している。クルマのバックカメラなんて最たるもので、はじめはうっとうしいくらいに言っていたのに、いまではないと不安で仕方がないのだ。まだマニュアル・シフトのドライヴ・フィールをよしとしているが、何年かしたら「AT以外は無理だ」と言っているかもしれない。


レンズに戻ると、この古いレンズはかれこれ20年近く前に手に入れたものだと思う。当時(つまり2000年頃だと思うけど)僕はそれこそ使い古した1眼レフカメラを引き出しの奥から引っ張り出して、初心者のカメラ教室なるものに1度だけ通ってみたことがあった。あの時写真を撮影するための何かを“学んだ”記憶は残念ながらないのだが、カメラやレンズそのものについては知識がついた。当時僕が持っていたカメラはEOS Kissというちょっぴり恥ずかしいような名前のカメラで、一番初心者向きのカメラだったけれども、マクロレンズやこの70_200を着けると、あっと驚くような写真が撮れたもんだからすっかりカメラメーカーの策に嵌ってしまったことも思い出した。

メモ:
撮影は2019年10月中旬から下旬(28日)
Canon EF70_200 F4L(初期型ゆえ、ISはない)。このレンズ、いちおうまだ現役で新品の購入ができるけれども、断然手振れ補正付きの弟分の方がいいと思うな。


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