2022年5月29日日曜日

トップ・ガン マーヴェリックを見る。

 

トム・クルーズが主演するこのタイトル映画を、ロードショー初日の5月27日に見た。この映画は昨年(2021年)に公開予定だったが、件のコロナウィルス感染症防止の影響を受けて、1年先延ばしになっての公開となった。

 


諸紙に、あるいは数多のネット上の情報で十分知られている通り、この映画は1986年公開のトップ・ガンの続編になる。36年(当初の映画公開予定からすれば35年)のスパンで撮られた第二作としては、僕の知る限りもっともスパンの空いた続編映画ではないだろうか?

この長スパンの要因は、二つの時代背景的な要因が指摘されている。ひとつは映画の撮影スタイルのCG化が進み、本作のような最新の米軍戦闘機を扱うような映画の場合は、コストの面からも実写がされにくい傾向にあること。さらにもうひとつは、最新の戦闘機のパイロットという役柄を、かなりの部分を実際に演じることのできる俳優が、現実問題いないということのようだ。

けれども1986年に1作目のトップ・ガンでスターに這い上がったトム・クルーズはじめ、撮影スタッフも実写にこだわり、迫力や臨場感を追求した結果、この映画はCGなしのオール実写で撮られることになった。

映画の撮影経費を考えると、空恐ろしくなってしまうけれども、1作目のトップ・ガン公開後には米海軍の戦闘機乗りに大勢の応募があったようなので、広い視点で見れば、社会的には費用対効果はクリアできているのかもしれない。

 


映画の内容に話を移す前に、もう少し予備的なことにお付き合いいただきたい。まず1作目のトップ・ガンでは、戦闘機にF14(トムキャット)が使われた。今回はFA18(スーパーホーネット)が担っている。スペック的な詳細はネット上の情報にお任せするが、最新のアビオニクス(電子航空操縦装置、レーダー含む)に包まれたホーネットと、まだアナログのスイッチ類満載のトムキャットを比べると、外観こそどちらも双発の美しくさえ見える戦闘機ながら、そのポテンシャルの差はけた違いだろうと思われる(実際そうなのだが)。しかも、大変ありがたいことに、今や全機が退役した中で、映画のシーンにはF14がしっかり登場する。両機の飛行シーンを存分に満喫できる点も、間違いなくこの映画の魅力の一つだと思う。これらの複雑な操縦手腕が求められるタイプの違う戦闘機を曲がりなりにも扱いながら撮影をこなしたわけだから、トム・クルーズはじめ出演した俳優陣は、想像を絶する訓練を積んだに違いない。

操作もさることながら、スーパーホーネットは、8~9Gというものすごい重力場をものともせずに飛行する。その時の表情(顔のゆがみや、重力場に苦痛を訴えるさま)を実写することで、先に記した臨場感を最大限引き出した映画に仕上がっている。

映画の1シーンで俳優陣がビーチでフットボールに興じるシーンがあるのだが、みな鍛え上げられたボディで、実写が噂だけではないことが伝わってきた。

 

さて、あれやこれやと書きたいことがいっぱいで(これでも控えめにしたつもり!)なかなか映画の内容にたどり着けなかったが、いよいよそちらのことにも触れておこうと思う。

まず、いわゆる「いい映画だったかどうか」という点で、星5つ(満点)を迷うことなく差し上げたい。ストーリーは36年前の前作からつながる、少し複雑なものだ。ただ、前作で戦死した主人公の同僚の息子が、今度は現役のパイロットとしてトム・クルーズ(マーヴェリック役)の相棒を務めることになる点だけ押さえておけば、あとはすんなり展開についていくことができるはずだ。

前作で出演した時のトム・クルーズは、売り出し中の23歳。そしてロマンスのパートナーだったケリー・マクギルスは28歳だった。ケリー(チャーリー役)は、アメリカ人女優らしいゴージャスな雰囲気で、トム・クルーズとのキャストにはほれぼれしたものだ。36年後の今、ジェニファー・コネリーが新たな相手役を務めている。そして今回のこの二人が、またいい感じなのだ。50歳代という設定で、まだ枯れてはいないけれども、もちろん燃え盛るような恋人同士でもないふたりが、ゆっくりと心を許しあって行く。激しく愛し合うシーンは無い。慈しみあいながら昔話を語りながら寄り添う二人が素敵としか言いようがない。

もちろん一番の見どころの戦闘機の激しい攻防シーンなしにはこの映画は語れない。実写にこだわったトム・クルーズの意地が、全編にみなぎっている。まるで戦闘機のコックピットに閉じ込められたかのような臨場感がひしひしと伝わってくる。CGでも、もしかしたら近い映像は撮れたのかもしれないなぁと思わないでもないが、この映画は「実写です」という事前情報とともに見ているので、どうしても凄い!と感じてしまう・・・。

 

最後に、この映画は広義では戦争映画の範疇に入るかもしれない。少なくとも、戦闘シーンはけっこうある。戦争して勝利するということは、敗戦して命を失う相手がいる、ということでもある。だから、戦争映画のヒーローを、安易に崇める態度には疑問を抱いてしまう(特に近年の設定だと、一層)。トップ・ガンにおいても、生身の敵が大量の血を流しながら果てるようなシーンはないが、明らかに絶命するシーンはある。奇しくも2022年は、ロシアのウクライナ侵攻が始まった年。現実では性懲りもなく私たち人類は、殺戮を繰り返している。アメリカは、ベトナム戦争の昔から、いや、第一次大戦のはるか昔から、ずっと殺戮に手を染め続けてきた国だ。今やその恩恵にどっぷりつかりきった日本で、何が言えるとも思えないが、やり方はさておき、自由と民主主義を守り続けたアメリカの歴史は、真っ赤に血で染まっている。そしてそれは、アメリカなりの矜持があり、その正義はこの映画の中にも貫かれている。

2022年5月9日月曜日

宿屋を始める彼らへ

 4年ほど前、この美瑛に和食でおいしい料理を提供するお店が、千代田の丘のさらに奥のほうに新規オープンした。もともとカフェ系の多い美瑛・富良野にあって、和食のしかもなかなかに美味しくて価格もリーズナブルなお店は重宝したので、何度か通った。いつも温かく迎えてくださるご夫妻のもてなしも心地よかった・・・。

その彼らが、このコロナ禍の影響もあって飲食店では立ちいかず、閉店して宿泊施設に転換するという意思表示をお伺いしたのは2021年の秋も深まるころ。正直なところ飲食店の経営に関して詳しいとは言えない僕にとっては、比較検討の難しい判断に違いないのだけれども、”相談に乗ってほしい”と言われて、とりあえずお話だけ伺うことにした。なんでも、飲食店の客単価の低さをどうにもできないご様子で、場所も確かに辺鄙なところでもあり、レストラン経営には不向きと思われているようだった。立地だけで考えれば、確かに飲食より宿泊向きだと言えなくもないが、コロナ禍でどちらが強いかと言ったら似たり寄ったりじゃないかというのが私個人の印象だ。むしろ幾ばくかの補償体制が手厚い飲食のほうが、今のご時世いいんじゃないだろうかとさえ思えたのに加えて、宿泊業の初期投資の高さを思うと(増してやウッドショックで木材が暴騰してもいるし)、しばらく(2~3年くらいは)見送ったほうがいいんじゃないかとお伝えした。

時は流れて年が明けて間もない頃、やはり宿泊施設への転換を決断し、資金繰りと業者さんへの手配をおおむね完了したと言う。おっと、もうやっちゃったんかい?と少々慌てるも、他人様のことではあるし、余計な口出しが許される範囲は限られると口をつぐんだ。とは言うものの、気になることは山ほどあり、リニューアルのための工務店さんはどこにしたのだろう、お部屋のレイアウトはどうか、調度品は何をどうそろえるんだろうなどなど果て無く思い浮かぶことはあった。

さらに時は流れてこの5月の連休の最中に、出来上がったので見に来て欲しいと再々要請が入る。無下に断る理由もないので、GW明けの今日スタッフ一人も連れて、カミさんと3人でお邪魔した。工務店さんは旭川の芦野組さんとのことで、手堅いところに依頼したなぁと感心する(実際に客室の出来栄えは、素晴らしいと感じた)。がしかし、いざ宿泊施設で経営となると、けして熟練者とは言えない僕でも、先達として気になることがたくさん思いついてしまう。価格のこと、食事のこと、おもてなしのこと・・・。どうやら彼らがモデルにしている宿泊施設があって、そこに準じたスタイルで始めようとしていらっしゃるようなのだが、そう上手く運ぶといいのだが簡単ではないだろう。ダブルブッキングのことなどを気にしていらっしゃったけれども、オープンしたばかりの宿屋さんにとって、ダブルブッキングなんて嬉しい悩みで、まずは何よりも集客を優先させなければならない。少々告知が遅れたとのことだけれども、先々まで入っているご予約は、ごく僅か。しかもそのうち1件は、数日前にキャンセルされたと言う。

とにもかくにも、もう設備投資はしてしまったので、後戻りはできない。もし戻れたとしたら、せめてここだけはと言いたい点は数あれど、それはタラレバになっちゃうので言葉を飲み込んだ・・・。今彼らに一番足りないのは、”お客様目線”ではないかと思う。自分たちはこの価格でないと困る(あそこもこのくらいだし)。あるいはこういう使い方をしてほしい、等々すべては自分目線で始まってしまっている。そこに滞在するお客様の目線になって、もう一度再検討してもらえたらなぁと強く感じた。

かく言う僕自身も、コロナ禍で大苦戦していた経営状態から、少しでも早く脱出できるようにと設備投資を重ねてきた。一番力を入れたのは、せっかくある広い庭の使い勝手の工夫だ。見晴らしもいいので、お客様に朝食を召し上がってもらうのに、オープンテラスで、なんてどうだろうとパーゴラ建てたり、パラソル立てたりあれこれやってみた。さらにはラズベリーやサクランボの木を植えて、お客様自身がそれらを摘んで召し上がっていただこうとも画策中だ(実が採れるようになるには、3年くらいかかりそうだけど)。曲がりなりにも”お客様の気持ちになって”考えたつもりだ。このGW中にご利用いただいたお客さまからもご好評をいただいたので、これからご滞在くださる皆さまにも、ぜひお使いいただけたらと願っている。

それにしても、新しく宿泊業をはじめる彼らのことを思うにつけ、自分は運がいいなぁと感じないではいられない。それは、スタッフはじめ、的確なアドバイスや価値ある情報を提供してくれる取引先さんに恵まれていたことだ。たとえ僕が今よりはるかに優秀なオーナーだったとしても、一人で思いつくことやできることなんて限界がある。いろいろな人から多面的な話・情報を得ることができれば、判断はどんどん進化する。僕が今やっていることすべてが概ね正解とは言えないと思うけれども、それでもリピーターさんの多い宿屋のオーナーになることができたのは、偏に「人」に恵まれていたからんだと、今回改めて気づかされた。

さしておすそ分けは出来ないけれども、新たに宿屋業にシフトする彼らにも、どうか成功して欲しいと祈りつつ・・・。