2022年5月9日月曜日

宿屋を始める彼らへ

 4年ほど前、この美瑛に和食でおいしい料理を提供するお店が、千代田の丘のさらに奥のほうに新規オープンした。もともとカフェ系の多い美瑛・富良野にあって、和食のしかもなかなかに美味しくて価格もリーズナブルなお店は重宝したので、何度か通った。いつも温かく迎えてくださるご夫妻のもてなしも心地よかった・・・。

その彼らが、このコロナ禍の影響もあって飲食店では立ちいかず、閉店して宿泊施設に転換するという意思表示をお伺いしたのは2021年の秋も深まるころ。正直なところ飲食店の経営に関して詳しいとは言えない僕にとっては、比較検討の難しい判断に違いないのだけれども、”相談に乗ってほしい”と言われて、とりあえずお話だけ伺うことにした。なんでも、飲食店の客単価の低さをどうにもできないご様子で、場所も確かに辺鄙なところでもあり、レストラン経営には不向きと思われているようだった。立地だけで考えれば、確かに飲食より宿泊向きだと言えなくもないが、コロナ禍でどちらが強いかと言ったら似たり寄ったりじゃないかというのが私個人の印象だ。むしろ幾ばくかの補償体制が手厚い飲食のほうが、今のご時世いいんじゃないだろうかとさえ思えたのに加えて、宿泊業の初期投資の高さを思うと(増してやウッドショックで木材が暴騰してもいるし)、しばらく(2~3年くらいは)見送ったほうがいいんじゃないかとお伝えした。

時は流れて年が明けて間もない頃、やはり宿泊施設への転換を決断し、資金繰りと業者さんへの手配をおおむね完了したと言う。おっと、もうやっちゃったんかい?と少々慌てるも、他人様のことではあるし、余計な口出しが許される範囲は限られると口をつぐんだ。とは言うものの、気になることは山ほどあり、リニューアルのための工務店さんはどこにしたのだろう、お部屋のレイアウトはどうか、調度品は何をどうそろえるんだろうなどなど果て無く思い浮かぶことはあった。

さらに時は流れてこの5月の連休の最中に、出来上がったので見に来て欲しいと再々要請が入る。無下に断る理由もないので、GW明けの今日スタッフ一人も連れて、カミさんと3人でお邪魔した。工務店さんは旭川の芦野組さんとのことで、手堅いところに依頼したなぁと感心する(実際に客室の出来栄えは、素晴らしいと感じた)。がしかし、いざ宿泊施設で経営となると、けして熟練者とは言えない僕でも、先達として気になることがたくさん思いついてしまう。価格のこと、食事のこと、おもてなしのこと・・・。どうやら彼らがモデルにしている宿泊施設があって、そこに準じたスタイルで始めようとしていらっしゃるようなのだが、そう上手く運ぶといいのだが簡単ではないだろう。ダブルブッキングのことなどを気にしていらっしゃったけれども、オープンしたばかりの宿屋さんにとって、ダブルブッキングなんて嬉しい悩みで、まずは何よりも集客を優先させなければならない。少々告知が遅れたとのことだけれども、先々まで入っているご予約は、ごく僅か。しかもそのうち1件は、数日前にキャンセルされたと言う。

とにもかくにも、もう設備投資はしてしまったので、後戻りはできない。もし戻れたとしたら、せめてここだけはと言いたい点は数あれど、それはタラレバになっちゃうので言葉を飲み込んだ・・・。今彼らに一番足りないのは、”お客様目線”ではないかと思う。自分たちはこの価格でないと困る(あそこもこのくらいだし)。あるいはこういう使い方をしてほしい、等々すべては自分目線で始まってしまっている。そこに滞在するお客様の目線になって、もう一度再検討してもらえたらなぁと強く感じた。

かく言う僕自身も、コロナ禍で大苦戦していた経営状態から、少しでも早く脱出できるようにと設備投資を重ねてきた。一番力を入れたのは、せっかくある広い庭の使い勝手の工夫だ。見晴らしもいいので、お客様に朝食を召し上がってもらうのに、オープンテラスで、なんてどうだろうとパーゴラ建てたり、パラソル立てたりあれこれやってみた。さらにはラズベリーやサクランボの木を植えて、お客様自身がそれらを摘んで召し上がっていただこうとも画策中だ(実が採れるようになるには、3年くらいかかりそうだけど)。曲がりなりにも”お客様の気持ちになって”考えたつもりだ。このGW中にご利用いただいたお客さまからもご好評をいただいたので、これからご滞在くださる皆さまにも、ぜひお使いいただけたらと願っている。

それにしても、新しく宿泊業をはじめる彼らのことを思うにつけ、自分は運がいいなぁと感じないではいられない。それは、スタッフはじめ、的確なアドバイスや価値ある情報を提供してくれる取引先さんに恵まれていたことだ。たとえ僕が今よりはるかに優秀なオーナーだったとしても、一人で思いつくことやできることなんて限界がある。いろいろな人から多面的な話・情報を得ることができれば、判断はどんどん進化する。僕が今やっていることすべてが概ね正解とは言えないと思うけれども、それでもリピーターさんの多い宿屋のオーナーになることができたのは、偏に「人」に恵まれていたからんだと、今回改めて気づかされた。

さしておすそ分けは出来ないけれども、新たに宿屋業にシフトする彼らにも、どうか成功して欲しいと祈りつつ・・・。


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