ちょっと暗い書き出しになるが、年の瀬と言うことで少し前まで2021年に亡くなった人がニュースになっていた。中にはあまりよく知らない人もいるけれども、とてもよく知っている人もいる。神田沙也加さんの自殺は衝撃だったけれども、瀬戸内寂静さんは天寿を全うしたようにも思えた。
極めて個人的になるが、僕にとって忘れられない故人のひとりはチャーリー・ワッツだ。この人の名を知る人は、それほどは多くないと思う。ブリティッシュ・ロック・バンドのローリング・ストーンズのドラマーだと言えば、あっと思い出す人はいるだろう。チャーリー・ワッツが忘れがたいのは、僕が高校生だった45年ほど前、結構熱烈なストーンズのファンだったからだ。
多くのストーンズファンと同様、まずミック・ジャガーのボーカルにしびれ、キース・リチャードのギター・ワークにほれ込んだ。すでにストーンズはロックの世界ではトップ・ランクに位置し、“メインストリートのならず者”、“山羊の頭のスープ(Goats head soup)”に続いて、高校1年生の僕が手にしたのは、ピカピカのニューアルバム“イッツ・オンリー・ロックン・ロール”だった。このアルバム(LPレコードですよ!)、何度聞いてもロックと言うよりはジャズっぽくもあり、艶っぽいバラードの曲が印象に残った。このアルバムで、チャーリー・ワッツのドラミングにハッとしたのは、今でも新鮮に覚えている。ロックと言えばパンチの利いたボーカルと、それをあおるかのような派手なギター・ソロがお決まりだと思い込んでいた僕にとって、チャーリーの叩くドラムは、不自然なほどに冷徹でそのくせ抜群にイカしていた。
ストーンズは、ドラッグあり素行不良も多々あり(麻薬関連で、日本に入国できなかった年が長きにわたって続いた)の札付きバンドでもあったが(それもバンドの個性で、ウリだったのだとも思う)、チャーリー・ワッツだけはいつだって短い髪で、スーツの似合う優等生然としたいでたちなのだ。派手なパフォーマンスでバンドをけん引するミック・ジャガーとキース・リチャードの反対側で、時計仕掛けのような正確なドラミングを黙々と続けるチャーリーに、僕はいつしか魅了されていた。
あれから時間はどんどん流れて、“アンダーカヴァー”までの9枚のアルバムを全部買い集め、その後も“ヴードゥー・ラウンジ“までのアルバムを時折購入した。結局僕がストーンズに熱を上げていたのは20年間ほどだが(1972年頃から1994年頃)、バンドとしては今年結成60周年だ。2021年にチャーリーが他界して、ホントの意味でのオリジナルメンバーは2人になってしまったけれども、60年間もロック界の先頭を走り続けるストーンズを、久しぶりに聞いてみようと思う。
もうひとり、2021年に亡くなった忘れがたい人は、フランク・ウィリアムズだ。こちらもすぐにピンとくる方はそんなにいないかもしれない。よく耳にする、イングランド系の名前だ(日本ならすずきたかしさんみたいな感じ?)。フランクは、F1に参戦する名門チームの1つ、ウィリアムズの創設者兼長年にわたってCEOだった人だ。環境問題が声高に語られる今日では、F1のようなガソリンを大量に消費するスポーツは、少しずつ居場所がなくなるかもしれないし、変化(特に回生エネルギーを利用して、ガソリンの使用量を抑えている点は、典型的な例)も進みつつある。
フランクに話を戻すと、F1参戦のチームはフェラーリなどのスポーツ・カー・メーカーが大資本と共に参戦するケースと(ワークス)、マクラーレンのようなプライベーターが参戦するケースがある。メーカーは当然のことながら「利害」に縛られるので、いくらスポーツ・カーを手掛けていると言ったって参戦に莫大な資金がかかるF1にはおいそれとは出て行けない。おまけに勝つ可能性が低いとなれば、メーカーは利害が一致しないので、かのポルシェと言えどもF1に参戦した経験はない(エンジンだけとかはあったけど)。一方のプライベーターは、個人が資金を集めて、エンジンとマシンを自作またはメーカーから買って使用するケース。フランク率いるフランク・ウィリアムズは、プライベーターのそしてF1参戦チームの名門で、年間チャンピオン7回、コンストラクターのチャンピオン9回、レースの優勝回数114回を記録している。
僕がウィリアムズをよく記憶しているのは、1984年に本田のターボエンジンを搭載し、1985年に加入したナイジェル・マンセルと1986年に加入したネルソン・ピケが火花を散らしてタイトルを争っていたのを興味深く見ていたからだ。この頃(1987年)日本人初のF1ドライバーとして、中嶋悟がロータスを駆ったのもF1過熱を刺激する出来事だった。結局この年はピケが年間チャンピオン獲得。その後にはエンジンをルノー製にチェンジして、マンセル⇒プロスト⇒デーモン・ヒル⇒ジャック・ヴィルヌーヴが年間チャンピオンを獲得。フェラーリやBMW、トヨタ、ホンダなどの大メーカーを相手に、果敢にタイトルに挑み続けたウィリアムズの黄金期は忘れられない。
どうやら僕は、大本命と言うよりは判官びいきってことなんだろう。ミック・ジャガーやキース・リチャードよりも、寡黙でプロに徹したチャーリー・ワッツが好きだし、フェラーリやメルセデスよりもウィリアムズを応援したくなってしまう。
もしかしたらそれは、僕が会社勤めを辞めて、個人経営の道に急き立てられた何かに結びついているのかもしれない・・・。まぁ至って個人的なお話ではあるんですけどね。
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